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三澤 廣氏の活動報告
(作家)

 三澤 廣氏の一覧


なぜ、何のために?  (H30-8-10)

 二〇〇二年に金正日が拉致を認める以前は、「北朝鮮が拉致に関わっている」と口にするだけで、ことさらに特定の国を敵視する良識のない人間だと非難されたものでした。
 その良識的な人々の常套句が「なぜ。何のために」だったのです。拉致なんかしても、北朝鮮にとっては一文のトクにもならない。だから、北朝鮮が拉致をしているはずがない、という理窟でした。
 良識的な教育論によると、「なぜ、なぜ」と訊く子供は好奇心が旺盛で、疑問点を解決しないと気がすまない、優れた子供だということになっています。ところが、しかるべき専門家に言わせると、「優れた子供は、疑問点を、後日の解決のために保留にしておくことができる」のだということです。
 なるほどと思いませんか。「なぜ、なぜ」と訊く子供は、知識欲と食欲が同じレベルにあって、「今すぐに」欲望を満足させなければ気がすまないのです。また、記憶力が弱いから、疑問点を頭の中に保留しておくことができないのです。

 理由を教えてもらえないと納得できない。納得ができないから事実そのものを認めたくない。だからこそ、多くの日本人が、北朝鮮の拉致という事実を認識することができなかったのです。
 朝日新聞が中国・韓国・北朝鮮の手下であることは、冷静な観察眼のある人になら、誰にでも分かることなのに、相当数の日本人がその事実を頑として認めないのも、同じ理由に依るものです。
 敢えて申しますが、特に主婦の方々にその傾向が強いようです。
 「朝日は、中国の指令で動いている」と言うと、主婦はすぐに柳眉を逆立てます。主婦は朝日新聞は天の声を人が語っていると信じています。
 だからこそ、「そんなことをして、朝日にとって、どんなトクがあるのですか」と怒り狂うのです。
 主婦の方々は、テレビドラマが大好きです。テレビドラマでは、正義の味方は必ずイケメンです。年配の主婦が小泉進次郎を見ると、かつての宇津井健に似ていないこともありませんから、テレビで演じた正義の弁護士やら医師やらを思い出して、「国民のことを思ってくれる政治家なんだ」と信じてしまうのです。菅直人さんのときにも、同じ勘違いをして馬鹿を見たのに、喉元を過ぎると熱さを忘れてしまうのです。
 刑事ドラマでは、「事件によって一番トクをしたのが犯人だ」ということになっています。そこで、テレビドラマが人生を描き出していると信じる人たちは、朝日が中国の手下になれば、具体的にどのようなトクがあるのかを分かりやすく言ってもらわないと納得できないのです。しかし、どんなことであれ、主婦の皆さんに分かりやすく説明するなどということができるものでしょうか。
 こういうと、すぐに、女性差別だと糾弾する人(男でも)が多いのですが、そうやって、日本では言論が弾圧されているのです。
 私は、女性のために弁明をしたいのです。知り合いの、ある優れた女性の話をしたいのです。
 運命の平成二十六年八月五日に朝日が慰安婦報道が誤報だったことを認めて、凋落の坂を転がり始める以前の話です。ある六十代の女性が、私に向って、「朝日って、なんであんなに中国の肩を持つのでしょうね」と訊いたものです。

 「そんなことをして朝日にどんなトクがあるのですか」と言って、朝日が中国の手下だという事実を認めようとしない女性をAタイプとしましょう。
 それに対して、「なぜ、朝日はあんなに中国の肩を持つのでしょうね」と訝る方々をBタイプとしましょう。
 同じように理由を訊いているのではあっても、知性のレベルが全く違うことに気付いて下さい。
 Aタイプの女性は、「朝日が中国の手下だ」という明白な事実を認めません。「中国の手下になる理由がない(中国の手下になっても朝日にはトクがない)のだから、中国の手下であるはずがない」という刑事ドラマ的発想から脱却できないのです。なぜそうなるのかが理解できなければ、厳然たる事実を見ても、その存在を否認するのです。
 Bタイプの女性は、「朝日が中国の肩を持っている」という事実を、ご自分で観察して発見したのです。そして、その理由は何だろうという知的な好奇心に駆られて、解明したいと思ったのです。これこそ、真の理性であり、知性なのです。

 来年の今月今夜の天気を予測することはできません。あまりにもたくさんの要素がからみ合っているので、計算ができないのです。おそらくは、神もまだ、その夜の天気を決定していないのでしょう。「神はサイコロを振らない」と言ったアインシュタイン君に、私の発見したことを教えて差上げますが、神は今月今夜が来る二週間ほど前にサイコロを振っていらっしゃるようです。
 尾崎紅葉君にも教えて差し上げますが、「来年の今月今夜の此の月を僕の涙で曇らせてみせる」(今月今夜に此の月が出るというのは、まだ旧暦のつもりだったのでしょうね)と言っても、雨が降っていたら曇らせようがないじゃありませんか。
 来年の今月今夜の天気予報のように、たくさんの要素が絡み合っているために、予測もしくは分析が不可能になっている状況を「複雑系」と呼びます。
 朝日新聞あるいはその社員たちが、なにゆえに、あれほどまでに反日の近隣諸国の肩を持つのかも、複雑系に属する問題です。
 考えられる要素をいくつか挙げてみましょう。
一. 戦後のマルクス主義への憧れから醒めていない。
二. 「反日」という社是に背くと出世できない。
三. 労働組合の支配が強い。
四. 近隣諸国の政府の気に入られないと情報収集に不便を来たす。
五. 記者が個人的に近隣諸国の政府から飴と鞭の支配を受けている。
 六.日教組教育を受けたために、すりこみが定着してしまっている。
 七.日教組を始めとする他の反日団体とのしがらみから抜けられない。
 八.日本人でない記者が他の記者を恫喝して支配している。
 朝日新聞社全体としては、おそらくこの八つの要素の全部が当て嵌まっているに違いありません。
 しかし、それぞれの事件、たとえば、中国のチベット弾圧について、見て見ぬふりをすることによって、具体的に朝日がどんなトクをするのかは、分析できるものではありません。
 それでも、鸚鵡まがいの朝日に首まで浸かっている人々は、「理由を分析できないのは、事実が存在しないからだ」と開き直るのです。
 女性、とくに主婦のみなさんにそういう方が多いのは間違いありませんが、事実を認めようとする賢明な女性もたくさんいます。
 認めようとしない方々に目覚めていただきたいと思うのです。