古賀俊昭 政治レポート   
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平成十八年十一月一日
「教育再生会議」室長、義家氏に異議あり(世界日報より) 
  
      

「教育再生会議」室長 義家 弘介氏/主任手当拠出の集会で講演
教育委員の職責と矛盾/文科省もクレーム

 安倍晋三首相直属の「教育再生会議」室長、義家弘介氏が横浜市の教育委員に
就任した後に、教職員団体が主任制度に反対し、その手当を組合加盟教員から拠
出させたお金で開催した都内の集会で講演していたことが判明した。ある都議会
議員は「教育法を順守すべき立場の教育委員が、主任制度を形骸(けいがい)化
させようとする目的で行われる拠出金で運営される講演会に出ることは見識を疑
う」と批判。さらに、「ヤンキー」を“売り”にする義家氏の姿勢に対して、
「不良や非行行為を是認することにつながる。このような人物が教育再生会議の
まとめ役になるとは、最悪の人事だ」と、教育再生会議の人選の基準に疑問を呈
した。(編集委員・鴨野 守)

 義家氏の講演会は昨年五月二十八日午後、東京都日野市民会館大ホール(収容
人数約千百人)で行われた。主催は、東京都教職員組合南多摩支部の日野地区協
議会で、共産党系である。ポスターにはわざわざ「主任手当拠出金事業」と銘打
っている。
 主任制度は旧文部省が昭和五十年末、学校教育の充実・向上を目的として導入
された。学校教育法施行規則(省令)を改め、それまでの保健主事や進路指導主
事のほかに、教務主任・学年主任・生徒指導主事などの主任を置くことが定めら
れ、手当は一日二百円、導入当初は一カ月二十五日として五千円が支給された。
だが日教組は「手当を出すことによって、主任に重みを持たせ、管理職意識を作
りつつ中間管理職を作り出す。それが教職員組合組織を分断する」などと主張。
「非常事態宣言」を発して、主任制度導入反対闘争を展開。「主任手当を拠出し
ない者は、命免しない(主任に命じない)」という手当の拠出を義務付ける項目
を入れた覚書を校長に要求してきた歴史がある。

 こうして主任となった組合教職員から手当を“吸い上げ”てきた。東京都の場
合、平成十七年度に支給された主任手当は約六億二千万円。このうち、約二億一
千万円が組合に吸収されたとみられ、ほかの県でも数千万円に上る。文部科学省
によれば全国における主任手当の総額は約七十億円。このうちの三分の一に当た
る約二十一億円前後のお金が教職員組合に流用されていると推定される。これら
のお金は組合活動のほか、銀行に預金されたりしているが、中には貸し付けを行
う組合まである。

 文部省は昭和五十八年一月十九日、各都道府県教育委員会に対して、主任手当
支給の趣旨の徹底を図る通知を出している。現役校長が自殺し、公教育の荒廃が
問題となった広島県教委に対して文部省は平成十年、異例の是正指導を行ったが、
そこでも「主任手当の拠出が行われないよう努めること」と言及。

 東京都教委も「主任手当の拠出は、主任制度の形骸化を図るものであり、到底
容認することはできない」(平成十六年十月二十六日、文教委員会)と答弁する
など、各県教育委員会はこの主任手当が正しく運用されるよう、何度も啓蒙(け
いもう)してきた。税金で賄われる手当の拠出は、極めて問題が多いと言わざる
を得ない。

 教育行政の正しい運営の先頭に立つべき教育委員の職にある義家氏が、事もあ
ろうに、この主任手当拠出金で開催される組合の集会で講演をしたのである。こ
の件について、横浜市教育委員会は「弁明になるが、その講演依頼は教育委員に
就任する前に義家氏の事務所が受けていたようだ。そのポスターが文部科学省か
ら当方に回ってきて『よろしくない』と指摘を受けた。義家氏の事務所を通じて、
主催者にポスターの回収を、それが全部できなければ『主任手当拠出金事業』と
いう文言を隠すよう伝えた。その対応ができたので講演されたと理解している。
義家氏には、教育委員の立場にあるので教育行政の根幹にかかわるものについて
はご相談させていただくとお話しした」と釈明する。

 これについて日野市選出の都議会議員、古賀俊昭氏は「横浜市の最高幹部に抗
議したところ『義家氏には、講演会で政治的発言をしないよう求めた』と弁明し
たが、教育法を順守し、周知徹底を図るべき立場の教育委員が、主任制度を形骸
化させようとする目的で行われる拠出金で運営される講演会に出るとは、全くも
って見識を疑う」と非難する。


義家氏の講演は――共産党候補の選挙応援/古賀都議が批判

 さらに古賀氏は、この講演会の開催目的が単なる文化講演会とは次元の違う、
極めて政治的なものと分析する。同講演会が行われた五月二十八日は七月三日投
票の都議会選挙の告示日である六月二十四日まで一カ月を切っており、既に事実
上の選挙戦が展開されていた時期。日野市では、古賀氏のほかに執印まち子氏
(東京・生活者ネットワーク)、村松みえ子氏(日本共産党)の三人が二議席の
ポストを争う構図だった。
 この三人は前々回(平成十三年六月二十四日投票)の選挙戦でも同じ顔触れで、
古賀氏が一位当選で、執印氏が村松氏に千三百三十五票差で二位当選した。とこ
ろが、昨年七月の選挙では、村松氏が執印氏に三百二十六票の小差で競り勝って
当選したのである。

 古賀氏は「選挙はその時のさまざまな政治的要因で左右されるものであり、断
定はできないが」と断りつつも「一般的に知名度が高い義家氏の講演は、共産党
候補の選挙に一役買った」と指摘する。

 義家氏は共産党系の全日本教職員組合(全教)編の月刊誌『クレスコ』ナンバ
ー15号(平成十四年五月二十日発行)に登場したり、全教主催の講演会で積極
的に講演してきた人物。十月十七日付朝日新聞で、イラクの人質事件で自衛隊撤
退を求める署名をしたことについて、「校長に頼まれたから」と発言しているが、
国旗国歌に反対するなど、思想的には明らかに共産党系の立場を取る。

 また、教育問題に熱心に取り組む古賀氏は、義家氏のアピールの方法にも大い
に問題がある、と言う。彼の著書には『不良少年の夢』『ヤンキー母校に生きる』
『ヤンキー先生のたからもの』『ヤンキー先生の教育改革−すべては子どもたち
のために』と、「ヤンキー」を“売り”にするものが目立つ。彼の講演の演題で
も同様だ。

 古賀氏は「教育にかかわる人間が、自分は不良でした、ヤンキーでした、でも
今は更生しましたということは言うべきではない。その論理でいくと、暴走族も
不良も全く注意や指導ができなくなる。なぜなら、彼らに注意をしても『いつか、
義家先生のように立派になるから、今の行動に文句を言うな』と反論されること
は必至。つまり義家氏のようなアピールの仕方は非行、犯罪、不良行為を正当化
させることにつながってしまう。そのようなことも気づかずに、彼をこの国の教
育改革の推進役に用いているとは一体どういうことか」と、教育再生会議の人選
の在り方に強い疑問を投げ掛けた。

 この件で、義家事務所にコメントを求めたが「マネジャーも一日外出しており、
コメントできる者がいない」と語った。
(世界日報11月1日付)