■前原代表の「中国に対する現実的脅威」の言は公人たる立場しかない

〜政権政党を目指す民主党の布石に〜

民主党の前原代表が訪問先の米国、中国のシンクタンク機関での講演
で、中国の現実的脅威を訴えるとともに、日本の集団的自衛権の行使及び
シーレーン防衛の重要性について、従来からの持論を堂々と展開した。
 年々の中国の軍事力増強については公表されている軍事費よりも実際は
2〜3倍のお金が振り向けられていること、台湾に向けられたミサイルの配備、
我が国を完全に射程圏内に入れている大陸間弾道弾の増強、そして東シナ
海でのEZZ水域でのガス油田の開発などを例にとって、「現実的脅威」とブレ
ることなく、米中に対して言い続けた見識と勇気は大いに評価してもいいので
はないか。

 その結果として、胡国家主席は当初予定されていた前原代表との会談など
をキャンセルするなど、姑息な抗議の姿勢を示したが、代表は「首相の國
参拝の問題が解決しても、日中間の問題は解決しないことがわかった」として
従来の「國参拝障害論」を転換する機会になったようだ。

 ところが直後の民主党大会ではこの代表の講演内容にさっそく、民主党の
代議員、国会議員がかみつき、「代表が中国を現実的脅威といい、集団的自
衛権行使の必要性を訴えることは民主主義の手続きによらず、党の総意で
はない」「代表と個人との見解を別にするべきだ」「中国を刺激することはよく
ない」といった、かつての護憲勢力(いまだもって、民主党の半分以上は護憲
勢力と考えられるが・・・)さながらに現実を見据えようとする勇気を持つことな
く、党の枠組みに代表の訴えを閉じ込めようとする奇妙な劇を演じたのだった。
前原代表も歴史観の問題をはじめとして、決して肯定できる相手ではないが、
少なくとも中国の軍事力増強を脅威とする政府、防衛庁の見解と同じ目線で
主張していることに大きな意味がある。

 小生には代表の主張を党代表としての見解か、個人の主張か分けるべき
だという批判こそ問題であって、代表に在任している限りはあくまでも公人として
の主張でなければ国民が納得しまい。確かに民主党は今まで安全保障、外交
問題については右から左まで様々な見解がありながら、分裂の可能性がある
ために、それを故意に集約してこなかった。

 しかし前原代表の主張は、もう安全保障問題は避けて通って政権政党に
はなりえないことを露呈したのではなかったか。その意味では、前原代表の
毅然とした態度は少なくとも民主党再生の布石を投げかけている。近く出さ
れる「前原ビジョン」によって党内の活発な議論が展開されることを切に望
みたい。