■北朝鮮を利する6カ国協議共同声明
      
 去る19日、北朝鮮の核開発問題をめぐる6カ国協議がようやくにして「共同声
明」
を発表したが、翌日には即座に北朝鮮は核放棄には「軽水炉の提供がまず先」と主
張、これに対して米国は国際原子力機関(IAEA)の査察受入れと核拡散防止条約
(NPT)への復帰が先だ」と主張し、すぐにこの共同声明の内容が曖昧なもので、
合意といっても何も確認されていないことが明らかとなった。20日の新聞紙上では、
いかにも北朝鮮が多国間の圧力によって譲歩して核を全面的に放棄することを約束さ
せられたように明るい見通しで報じていたが、小生にはこと北朝鮮が絡む問題につい
てはこのような成果を広げること自体が北朝鮮を利すると常に考えている。

なんといっても今回の共同声明には核放棄の時期が確定していないこと、ヒル米

務次官補は米朝核合意に基づいて建設が始まった軽水炉2基が完成するまでに最低10
年はかかると述べており、この10年間には核放棄をしないことを意味していること、
また2国間あるいは多国間での北朝鮮経済援助の文言は同国に好意的な韓国、中国、
ロシアが核問題と無関係に自由に援助できると解釈する余地を与えている。また我が
国の立場にとってみれば、独自での経済制裁発動にたががはめられてしまった格好で
ある。

  一方、北朝鮮の判断で米国が敵対的姿勢を示したと受け取った場合には、そもそ

声明の前提である信頼関係が瓦解してしまうこととなり、結局、北朝鮮の主導権に
よって「核の平和利用」の権利を持つということが発揮されかねない内容となってい
る。その意味では同声明とは6カ国協議の存続だけを確保したに過ぎないものであ
る。

  歴史的に見ても核兵器を持っている国と持たざる国との多国間の協議では、核の

用方法がどのようなものであれ、その場で取り繕うような合意文書が出たとしても実
効性がともなったことはなかったように思う。今回も北朝鮮が持っているとされる核
を巡ってわが国と韓国を除いた国は核を持っているのであって、核を持とうと意思し
ている国を許すことはあり得ない。換言すれば永久に解決することのできない難問な
のである。

  ただし日本人の拉致問題については、日朝関係で「不幸な過去の清算と懸案の解

を基礎として国交正常化をすすめる」としており、その拉致問題解決の意向の具体化
が日朝の政府間協議の開催といえる。問題は北朝鮮が「懸案」を既に解決済みとする
のか、国内での検討課題にしているのかであるが、政府には国交正常化を最優先にし
た姿勢ではなく、北朝鮮とさしで向き合う気迫とその背景には圧倒的な国民世論があ
ることを十分認識した戦略を持ってもらいたい。