■新年、明けましておめでとうございます。

本年も一層のご指導ご協力、宜しくお願い申し上げます。

 平成18年を迎えるに当たって、帰省して両親や親戚と1年を振り返れながら
しばしお屠蘇気分でいたものの、心することと心動かされることがあり、一瞬
にして現実の世界に引き戻されるような正月を過ごした。

 まず心することについて。
 それは4日の産経紙「正論」欄の曽野綾子氏が、「将来へのキーワードは
『怒涛の如く』」と題した一文で、社会の変化というものは、それなりにゆっくり現

るものだと思っていたが、まさか社会全体の資質が変わることはないと思っていた
が、老齢化と教育荒廃の現実を見た場合に早急な解決策を見出すことができな
ければ「怒涛の如く」社会全体が変わってしまうという危機感を訴えたものであっ
た。
昨年末以来の皇室の伝統を守ろうとしない皇室典範改悪の動きが深刻化してきた
り、中国を巡る、わが国の対東アジア外交の方向性など課題が山積する中で、内外
ともに『怒涛の如く』大きな波が押し寄せてきても、日本もろとも洗い流されないよ

にしなければならない。

 『怒涛の如く』という言葉には、一昨年末に起きたインドネシアの地震で起きた
大水害と同様に直前までその規模の大きさがわからずに、事が起こったときには
大変な事態になってしまうイメージがつきまとうが、今、解決策がわかっているに
もかかわらず、その術を使わなければ、今まで積み上げられてきたものが崩壊
する時代に私達が生きていることは確かだ。

 しかし一方、『怒涛の如く』は、一旦、勝機が見えればその勢いに乗じて、たとい
小さな問題が生じるにせよ、それを蹴散らす程の攻勢をかけるというイメージも
あり、是非ともそのような流れをつくりたい。言いかえれば、外から受動的、他動的
に『怒涛の如く』翻弄されることなく、内から能動的、主動的に『怒涛の如く』攻勢

かける1年でありたいと心した次第である。

 次に心動かされたことについて。
 それは何といっても新年に当たって、宮内庁より発表された天皇皇后両陛下の
昨年中にお詠みになられた御製、御歌であった。
 両陛下が偶然にもご訪問されたサイパン島のこと、ご結婚された黒田清子さん
への思いをお歌に託され、全く同じ目線で物事に接しておられることが伺える。

 天皇陛下 御製 
〈サイパン島訪問〉
 サイパンに戦ひし人その様を浜辺に伏して我らに語りき
 あまたなる命の失せし崖の下海深くして青く澄みたり

 皇后陛下 御歌
〈サイパン島〉
 いまはとて島果ての崖踏みけりしをみなの足裏(あうら)思へばかなし

 いうまでもなく、終戦60周年の節目の昨年6月27日、28日にご訪問されたサイ
パン島ご訪問の折りのお歌。第1首の「戦ひ人」とは昭和19年7月7日に日本軍
が最後の突撃を行った浜辺を両陛下がご訪問になられた際に、マリアナ戦友会
代表の大池清一さん(87)が実際に砂浜にうつ伏せになって米軍の艦砲射撃を
避けるために何時間も砂浜に伏していたことを、ご説明された場面であろう。

 そして、第2、3首は米軍への投降ほ拒否して断崖から多くの人々が身を投げた
スーサイドクリフ、バンザイクリフにて波打ち寄せる崖の先端に進まれ、青々とした
海を臨んで黙祷を捧げられた折のご感慨であろう。とくに皇后陛下の御歌の「踏み
けりしをみなの足裏思へば」の調べには、ここで多くの女性も死の覚悟をして、しっ

りと踏みしめた足跡があるのだろうと、お悲しみとともに、優しく亡くなられた方々

包んで下っている、御心が切なく伝わってくる。
 両陛下が慰霊のために外国で悲命にたおれた方々の御霊にも、現地で黙祷され
たことは歴史に刻まれていいだろう。

 天皇陛下 御製
〈告期の儀を迎へ〉
 嫁ぐ日のはや近づきし吾子と共にもくせい香る朝の道行く

 皇后陛下 御歌
〈紀宮〉
 母吾(われ)を遠くに呼びて走り来(こ)し
  汝(な)を抱(いだ)きたるかの日恋ひしき

 2首とも、紀宮さまへの限りない愛情と、これから離れられることに対する、これ
までの懐かしさと寂しさの情が一緒に詠い込まれている。両陛下にとって、紀宮さま
のご存在が本当にかけないものであり、これまで成年皇族として立派に育ってくれた
ことへの愛おしさが静かに響いてくるお歌である。

 そして、天皇陛下が次の御製にお詠みになられたように、皇室の祭祀の伝統の
重みをひしひしと感じた。これはもう、この社会がどのように変化、変遷しても常に
国民、世界の平和を皇祖皇宗と天地の神々に祈り続けられる陛下のお姿が一貫
して変わることがないというメッセージを私達に伝えておられる大御心に他ならな
い。

 天皇陛下 御製
〈歳旦祭〉
 明け初むる賢所(かしこどころ)の庭の面(も)は雪積む中にかがり火赤し

 新年を迎えるに当たって、国安かれ、民安かれを祈られる陛下の目には、降り積
もる雪の中で、かがり火が焚かれている様が幻想的な世界の中にも、ご歴代天皇
が途切れることなく、歳旦祭を続けて来られた歴史と伝統の上に自らもおられる強い
ご決意を拝察申し上げることができるのではないか。

 両陛下の御製、御歌を通じて、新年を清々しく迎えることのできる喜びを改めて
かみ締めることができた思いであった。

 心することと心動かされたことを胸に、この1年も頑張りますので、重ねて宜しく
お願い申し上げます。