徳永信一氏の活動報告
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人権の国際標準化:「世界人権宣言と保守思想」 H19-9-24
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From: "tokushin" <>
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Sent: Monday, September 24, 2007 9:54 PM
Subject: [minakiclub-zennkoku] 人権の国際標準化:「世界人権宣言と保守思想」


徳永です。

保守派による「人権」奪回戦略の1つの軸として人権の国際標準化があることはすで
に述べました。
世界人権宣言(48年採択)は、国際人権の原典ですが、そのなかにも「道徳の保
護」が人権を破るものとして規定されているばかりでなく、その他の多くの保守思想
の種が埋め込まれています。

まず、第1条に、人権の原点となる考え方が記載されています。
第1条 すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利におい
て平等である。人間は理性と良心を授けられており、互いに友愛の精神をもって行動
しなければならない。

ここで注意すべきは、人間には「理性」とともに「良心」を授けられていること、そ
して互いに「友愛」の精神をもって行動しなければならないとされ、キリスト教の考
え方が色濃く反映されていますが、それはそのまま日本的伝統の文脈においても理解
しえることです。

まず「良心」は伝統的価値観や道徳なくては生まれません。更に、「友愛の精神」
は、義務や道徳につながるものであることを押さえておいてください。

続いて第18条の思想、良心及び宗教の自由が注目されます。
そこでは、「すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。こ
の権利には、宗教又は信念を変更する自由並びに、単独で又は他の者と共同して及び
公的に又は私的に、教導、行事、礼拝及び儀式によってその宗教又は信念を表明する
自由を有する。」とあります。これはサヨクがよく持ち出す規定なのですが、そこに
保守思想に通じるものが包蔵されていることは忘れてはなりません。 

注目すべきなのは、後段の「他の者と共同して及び公的に・・・行事、礼拝及び儀式
によって」という部分です。これは共同体の祭祀や年中行事のことも含みます。すな
わち、マルクスの「ゴータ綱領」にあるように左翼イデオロギーは、宗教を私事に閉
じ込めようとし、祭祀や儀礼行事を中心とする神道を公領域から排除しようとしてい
ますが、世界人権宣言における「宗教の自由」は、共同体で《公的》に行事、礼拝、
儀式することをも宗教の自由に含めています。

第25条は2項で、「母及び子は、特別の保護及び援助を受ける権利を有する」とあ
ります。これは「母性の保護」です。
「母性の保護」は、女性の母親としての役割を保護することになることから、役割分
担の固定を警戒するフェミニズムと衝突するものです。ですからフェミニストは、決
して「母性の保護」をいいません。女も母も、決してフェミニズムに流れることはあ
りません。フェミニストは非性の個人なのです。保守派はこのことを忘れないでくだ
さい。

第29条は、【社会に対する義務】を定める条項です。これは是非とも人権の暴走と
闘う保守派は押さえておいて欲しいものです。

第1項、すべての者は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能で
ある社会に対して義務を負う。
第2項、すべての者は、自己の権利及び自由の行使に当たって、他の者の権利及び自
由の正当な承認及び尊重を確保すること並びに、民主的社会における道徳、公の秩序
及び一般的福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として方により定められた
制限にのみ服する。

人権は、(1)「他者の権利との調整」、(2)「道徳、公の秩序の保護」、そして
(3)「一般的福祉の要求」という3大制約原理に服することが述べられています。
日本国憲法に規定されているのは「公共の福祉」ですが、その内容として(1)と
(3)は言われますが、なぜか(2)は憲法学説は向き合ってきませんでした。人権
に優先する「道徳の保護」は、サヨクには不都合だったからでしょう。

世界人権憲章には「民主的社会の道徳、公の秩序」とありますが、「民主的社会」と
いう限定は無視してもいいと考えています。というのは、世界人権憲章をもとにして
成立した「国際人権規約」(66年採択)には、

第18条【思想・良心及び宗教の自由】の3項は、「宗教又は信念を表明する自由に
ついては、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道
徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課すること
ができる。」とあり、「民主社会の道徳」という制約が外れています。

同じく、第19条【表現の自由】の制約原理を定める3項も、a)他のものの権利又
は信用の尊重とともに、b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
を理由にした法による制限は認められることを明記しています。ここでも「道徳の保
護」があげられています。

また、欧州人権規約及び米州人権規約にも、同様の規定があります。

国際人権の領域では、「道徳の保護」は、公共の秩序の保護と並び人権の制約原理と
しての地位を有しているのです。日本国憲法には、保守の概念である「道徳」も
「母」も「友愛」も「人間の尊厳」も「公共の祭祀」もありませんが、人権が普遍的
であり国際的であるというのであれば、解釈論を通じて、その精神を注入することは
十分可能であると考えています。

以上
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