「ナショナル・アイデンテティの確立について」(意見書)


 国連総会において全会一致で採択され、平成六年に国内発効した「子どもの権利に関する条約」は、日本国憲法に準ずる法的効力を持つ国内法規範であります。その第八条に「条約締約国は、子どもが不法な干渉なしに、法によって認められた国籍、名前、および家族関係を含むそのアイデンテティを保全する権利を尊重することを約束する」とあります。

 しかしながら「法によって認められた国籍・名前・家族以外のアイデンテティ」の定めが未だに法制化されていませんので、わが国においては子どもの権利を尊重することを約束する対象となるものの定めが足りない状態にあります。換言すれば、教育基本法に基づいて国民の育成を期して教育されている子どもたちが、国家からはたまた外国から尊重されるべき根源的な人権である国民のアイデンテティが何であるか、全く教えられていないのであります。

従って当局者は早急に関係法の制定に着手しなければならないと思います。しかも「子どもの権利に関する条約」に付属する法として、

人権問題として位置づけすることが肝要と考えます。

 次に、「法によって認められたアイデンテティ」は、既存法の中にある法文の中から抽出され、定められるべきであると思います。このような意味からいたしますと、現行日本国憲法の根本思想を日本人のアイデンテティ即ちナショナル・アイデンテティとして定義づけするのが最もふさわしいものとなります。

 日本国憲法はその前段冒頭において、日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動する、国民主権の国政を行うとしておりますことから、国民が望む自由民主主義政治体制を尊重する精神が、第一のナショナル・アイデンテティであります。

 次に、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、日本国民の総意に基づきおかれる天皇を敬愛する精神が、第二のナショナル・アイデンテティであります。

 第三に天皇を中心にして日本全国津々浦々に浸透している多神教の多様な歴史的習俗、習慣や人々と風土に親しみを感じ愛する精神が、ナショナル・アイデンテティであります。

 政権政党である自民党としては、日本国民が保全する権利を有するナショナル・アイデンテティという基本的要件の定義を右のように定め、それを国家が尊重することを約束する法を確定した後に、現行憲法や教育基本法の各条文改正に取り組むのが国際法理に適う取組みと思料する次第です。「個人の尊厳」を基礎とし、法の支配によって人権としてのナショナル・アイデンテティを保護するこの定義は、普遍的なものとして世界人権宣言の下に国際社会からも、尊重されるに違いありません。人権保護と対立する響きを持つ「愛国心」という用語の使い方を、工夫すべきだと思うのです。

なおアイデンテティを尊重しない人の思想の自由も確保されなければならないと思います。その場合には、アイデンテティを尊重されなかった大多数の人の苦痛を救済することを考慮して、一定の社会的償いを科す規則を作り、法の下の公平を期すべきであります。以上