平成17年1月13日
自由民主党幹事長 武 部 勤 殿

横浜の教育を考える会 代表 湯澤甲雄
横浜市南区大岡3−41−10
TF045−713−7222、74歳
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     義務教育の基本に関する考察について(意見)
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 憲法改正、教育基本法改正に伴って、教育はどのようにあるべきか、日本人のナショナル・アイデンテティをどのように定めるか等さまざまな議論が行われています。
 私の現役時代は銀行員でありましたので、教育学、法学等の素養はありませんが、種々行われている議論の大勢を眺めてみますと、特に義務教育をめぐる問題について何か重要な視点を置き忘れて議論が進められているような気がいたしますので、あえて筆を執ることにいたしました。

一、義務教育の基本形(態様)
   現行憲法26条と教基法10条1項、11条によれば、「義務教育は法の定めるところにより行われる」となります。この憲法(昭21年公布)、教基法(昭22年制定)の直下に学校教育法、学校教育法施行規則(何れもが昭22年制定)があって、教育内容と管理運営事項の定めを設けて、義務教育体制を完結させています。
このような義務教育行政法体系を見れば、義務教育を国務とする位置づけをしていることが分かります。同時に、校長が学校管理運営権を保有し、教育のベテランと認められている校長を中心とした教育の推進を、国の方針としていることが感じ取れます。
  また、学校教育法に所属する校長や教員は、国家公務員法に基づく国家公務員としての教育公務員の身分となるのであります。
  これが、わが国義務教育の基本形であります。
  
二、義務教育法律主義の行政体制
  「義務教育は、法の定めるところにより行われる」とした義務教育法律主義の条文ほど、自由民主主義国家に相応しいものはありません。
  法は、国会の議決により制定され、国会は国民の選良により構成されていますので、結局国民が義務教育を作っている民製教育となるからであります。
  定められた法は、強制力を伴って施行されるのは当然であり、強制力の伴わない法を制定する国家など世界中にありません。法に基づく義務教育を徹底するために、国家権力が介入することに反対する国民は、一部の反体制者を除いて存在しないはずであります。自由民主主義国家の議会で制定された法の施行であるから当然です。
  法に基づいて整斉と行われる義務教育こそが、教基法第10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきである」とする規定に合致するのであります。
  従来の経緯に鑑みて、教基法第10条の条文解釈は誤解が生じやすいのであれば、「教育は、不当な支配に服することなく、法の定めるところにより国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきである」と、一部字句を挿入する改定をしたら十分であると思います。
  次に、憲法全文を見ると行政事務について法律主義を定めたものは、義務教育の他に租税があります。
租税の事務は、財務省の下に、国税庁設置法による国税庁があり、その全国組織として都道府県税務支署、市町村税務署があって、全国寸分異なることの無い行政を行っています。
私は義務教育もこれと同じような組織が、現憲法の下に作られて然るべきと思っています。即ち文科省の下に、義務教育庁設置法による義務教育庁があり、その全国組織として都道府県支署、市町村事務所、小中学校、校長があって、全国均質的に学校教育が行われる中央集権の体制を確立することであります。
かくすることによって、教基法第1条(教育の目的)に規定する教養の高い、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期すことのできる行政体制が完成するものと考えます。
  更にこの目的の確実な達成のために、学力向上、教育効率向上を専門にする師範学校の設置を進めることにしたいと思います。
  以上が、わが国義務教育法律主義のあるべき行政であります。

三、地方教育行政の組織及び運営に関する法律と教育委員会
  昭和23年制定された教育委員会法が昭和31年に廃止されると同時に新規に制定された地教行法は、教育委員会の設置、学校職員の身分の取扱い、教育行政組織及び運営の基本を定めることを目的とするものであります。
しかしながら憲法や教基法において、「義務教育は法の定めるところにより行われる」と規定している以上、地教行法において定める「基本」のすべては、「法」をなぞったものでなければならないのであります。しからざれば、憲法、教基法違反となります。このようなことからすれば、そもそも地教行法をわざわざ追加して制定する意味が希薄なのであります。
  また、地教行法制定の理由に「当時本格的に形成されてくる冷戦構造体制を起因とする政治的対立の激化を背景に、教育行政の政治的中立と安定性を確保し且一般行政と調和した教育行政制度を確立する」とされています。(「解説教育六法、三省堂」平成14年版414ページ)しかし、「冷戦構造体制」はとうの昔になくなっており、「教育行政の政治的中立と安定性、一般行政との調和」については、義務教育は法の定めるところにより行れるのであるから、今更政治的中立性や一般行政との調和をはかることの必要が無いのであります。
  このような意味からしますと、地教行法は既に死んだ法であり、義務教育制度を複雑化しているだけに過ぎないので、行政簡素化の見地から廃止すべきであります。
  死んだ筈の地教行法とその下に設置されている教育委員会が今も存在し且教育行政の管理運営事項の基本的事項について権限を有するために、次のような障害が生じています。
1. 国家公務員である筈の教育公務員が、依然地方公務員として労働法の適用を受ける労働者であり続けるため、教師として尊敬の対象になりえない状態が続いている。
2. 国法で定めている校長の学校管理運営権について、左傾化した教委事務局が行政解釈権を主張して地教行法の基本的事項に繰り入れてしまい、学校教育法や学校教育法施行規則の定めを認めない事態が出来している。校長という柱を教委によって取り外された学校管理運営は、左翼組分会勢力の支配するところとなって、国法の支配しない学校が各地で現出している。
3. 左翼組合分会が支配した学校においては、職員会議を組合決議機関化し、校内における教科書採択委員会や給食委員会等すべての学校運営委員会で、左翼の利益を代弁する決定を行って、校長に校長係として使い走りをやらせている。
4. 学校管理運営の重要事項の決定は、県教委と県教組、地区教委と地区教組、校長と分会長のラインで決められて、校長は決められた内容の円滑な執行役でしかない。
5. 国法で定めている教育委員の教科書採択権が、左傾化した教委事務局が先導的に作った民主的教科書採択制度により、事実上組合が掌握してしまう事態の出来を教委は設定している。
6.教育委員の教科書採択権について事実上組合が掌握した結果、組合が教科書執筆者や発行会社に直接注文をつけたり、教育委員をして意のままに従わしめるべく強制する事態が出来している。教科書執筆者、教科書会社、教育委員を静謐な状態においていない等々

四、地教行法廃止に付随して発生する教育行政正常化・合法化の効果
  憲法、教基法に定める「法の定めるところにより義務教育を行う」とした条文の阻害要因である地教行法を廃止することによって、付随的に発生する教育行政正常化・合法化の効果を挙げると次の通りであります。
  1.教育公務員としては、教育委員会が解散されることによって、雇用主不在・雇用契約解消となりますが、学校教育法に基づく身分により国家公務員法上の国家公務員に任用される道が開かれます。
このために教育公務員に適用されていた地方公務員法が不適用になる結果、地方公務員法に基づいて定められた条例、規則、闇協定、闇覚書、闇慣習等一切の過去のしがらみが効力を失うことになります。
「平準化した人事制度」「ながら条例」「闇専従」も、教育公務員に関しては蒸発してしまいますので、隠れた膨大な行政経費の節減効果が期待できます。
  2.文科省、義務教育庁、都道府県支署、市町村事務所、校長、職員全員が、国家公務 
   員たる教育公務員としての共通の意識と誇りをもって、一体的教育行政事務が行われるようになります。
  3.義務教育庁の新設による教育行政事務の簡素化と、義務教育以外の教育事務の地方分権により一般行政に集約をはかることにより、地方教育行政事務負担の軽減が図れます。
  4.教育公務員の政治活動の制限が、現在の国家公務員並みに適用され沈静化しますので、教育行政効率の向上に教師の関心が向いて、学力向上に繋がります。
  5.教育のベテランである校長が復権することによって、やる気のある教師が輩出し、レベルの高い特色ある学校づくりが盛んになります。
  6.学習指導要領(国法)に基づき作成された教科書について、別の複数の公務員がお互い平等の立場に立って、どの教科書が最も学習指導要領に沿って書かれているかを選択する制度が新たに作られることを望みます。

五、結語
  私は、わが国の法体系は良くできていると思っています。
  しかし世の中では事あるごとに、憲法が悪い、教育基本法が悪い、それは占領軍によ
って作られたものだから悪い、改正しなければならないと言われていますが、その言
は誠に安易であり自らの努力不足を棚にあげた逃げ口上であると思います。
  悪いといわれる内容をみると、その大層は左翼にかぶれた公務員が、憲法や教基法の
  ような根本法規ではない施行法の本旨を曲げて、条例や規則をつくり、その規則のも
  とに作られた取扱い基準に合規であるからみずからやっていることは合法であると、
━本来非合法であるにもかかわらず━称している類のものであります。
  方や政治家も左翼の運動に理解を示したり、なんとなく罠にかかってしまう不勉強な
政治家が多く、見過ごされているのです。その結果膨大な行政経費が、組合の利益のためにとうとうとして使われていることに、比較的無関心で居られるのです。
  綱紀の紊乱は、法律を作る政治家と法律を執行する公務員との関係において、前者は尊法精神に欠け、後者は遵法精神に欠ける精神を相乗した関係によりもたらされています。
  それ故に、憲法や教育基本法のような根本法規の改正を行ったとしても、所詮ざる法にしてしまう地合いに変化が無いのですから、根本法規の改正は労多くして効果変わらぬ結果をもたらすことになりかねません。
  このような見地から、地合いに変化を起こさせるべく、ここに施行法の角度から義務教育問題に関する意見を開陳させていただいたものでありまして、これをたたき台として専門家の皆様がご検討されて、更に発展させていただければ誠に幸いと思う次第です。以上